僕は新宿歌舞伎町近くの居酒屋で、編集者と話していた。
一歩外にでると、ビルの間からいくつもの高層ビルが見える。
「タイトルって大事ですね。本の顔ですから。いいタイトルはないですか」と、編集者。
「ありますよ」と、僕は答えた。
『都庁爆破』
いいかどうかは疑問だが、衝撃的であることは確かだ。
地上48階、地下3階。高さ243メートル。
現在では超高層ビルとはいえないが、東京のシンボルとして、その堂々とした姿は他を圧倒していた。
初めて間近に見たとき、建築物としての感動と共に、もしあれが倒れてきたら、と思ったのだ。そしてなぜか、「爆破」という言葉が頭に浮かんだ。
都庁が爆破される。
当時は、とてもありそうではなかった。
しかしそれは、日本ではということで、ないとも言い切れない世界情勢だった。
1990年。イラクのクウェート侵攻、多国籍軍の結成、湾岸戦争。世界は中東を中心に戦争を続けていた。
1983年。ベイルートでアメリカ大使館が爆破。約300名が死亡、5000名以上が負傷。
1995年。オクラホマシティ連邦政府ビル爆破。168名が死亡、800名以上が負傷。
1998年。ケニアでアメリカ大使館爆発。約200名が死亡。
と、イスラム原理主義過激派による自爆テロや、狂信者による大規模なテロが頻発していた。
そして日本でも1995年には、オウム真理教事件が起きていた。
松本や地下鉄でサリンがまかれるという、日本最大のテロ事件である。
しかし「早く書きましょうよ」という編集者の言葉とは裏腹に、僕はすっかり忘れていた。
その年の9月11日。
僕は岡山の実家に帰っていた。夜、なにげなくつけたテレビに釘付けになった。
画面には、2つ並んだ高層ビルが映っていた。
そして、その1つからは炎と白煙が出ている。日本時間午後11時46分。
ニューヨーク、世界貿易センタービルに、旅客機が突っ込んでいたのだ。
さらに――まさにリアルタイムで、もう一方のビルに、別の飛行機が突っ込んでいった。
数時間後、110階建て、高さ417メートル、富める国アメリカのシンボル的なツイン・タワーは、崩壊していった。
このテロで、3000人近くの命が失われた。
10月、アメリカはアルカイダを率いるオサマ・ビンラディンを追ってアフガニスタン攻撃を開始し、世界は果てしない殺し合いに突入していった。
その年の12月に、『都庁爆破』を出版した。
2009年。
8年がすぎた現在も、状況はあまり変わってはいない。
イラクでの戦争は泥沼化し、イラク人死者は5万人以上、アメリカ兵の死者も3000人を超えている。
アフガニスタンでは、今も戦闘が続いている。
世界各地で多くのテロが起こり、さらに多くの住民が犠牲になっている。世界は殺し合いを続けているのだ。
今後、日本も国際社会に、自衛隊派遣という形で貢献せざるを得ないだろう。
いずれ日本においても、同様のテロが起こる可能性は低くはない。
テロリストにとって、これほどテロを起こしやすい国はないのだから。
今回、『都庁爆破』の新装版が出版されることになりました。
私たちは、こういう「危うい世界に住んでいる」。世界の現実を直視し、危機感を共有し、少しでもよりよい世界を目指すことができると幸いです。
こういう事件が、小説や映画の中だけであってほしいと願いをこめて。



